横浜家庭裁判所横須賀支部 昭和59年(少)1205号 決定 1985年4月01日
少年 R・D(昭41.6、12日生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は
第一Aと共謀のうえ、金員を窃取しようと企て、昭和59年10月2日午前零時30分ころ、逗子市○○×丁目×番×号所在同市立○○中学校内に本館1階東側出入口のガラス引戸(二枚引サツシ戸)から故なく侵入し、同校職員室において、同校教諭Bがバレーボール代として同校生徒から集金し管理する現金約7000円を窃取した
第二昭和59年9月11日午前10時10分ころ、逗子市○○×丁目×番××号所在○○荘B××号室において、みだりに吸入する目的で、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する劇物である酢酸エチル及びトルエンを含有するラツカーうすめ液226ミリリツトルを所持した
第三他1名と共謀のうえ、昭和60年1月11日午後11時30分ころ、鎌倉市○○×丁目×番××号C方駐車場において、同所に駐車中の普通乗用自動車(横浜××そ××××号)内から同人所有の現金4400円を窃取した
第四昭和59年12月20日午前6時45分ころ、神奈川県逗子市○○×丁目×番×号先路上において、普通乗用自動車を運転し、逗子マリーナ方面から国道134号方面に向けて時速約40キロメートルで直進した際、運転席前面にあるヒーターのスイツチを操作しようとしたが、このような場合、前方注視を十分行って進路前方から目を離しても安全であることを確認し、かつ自車が蛇行したり、道路外に進行したりなどしないようにハンドル操作を十分注意したうえ、上記スイツチ類を操作すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と運転席の前面にあるヒーターのスイツチを入れるため進路前方から目を離し、しかもハンドル操作を十分しないまま運転したことにより自車を進路左側に寄り過ぎた状態で走行させ、そのまま進行すれば自車を進路左側の家屋等に衝突する危険を生じさせ、これを回避するためにハンドルを右に急転把せざるをえないような状態で自車を運転させ、もって、過失により、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなかった
第五上記第四記載の日時ころ、同場所において、同普通乗用車を運転中、上記第四記載のとおり自車のハンドルを右に急転把して自車を進路右側に暴走させ、自車右前部を進路右側の店舗のシヤツター及びブロツク塀に衝突させてこれらを損壊させる交通事故を発生させたのに、直ちに事故の発生日時及び場所等法律に定める事項を最寄りの警察の警察官に報告しなかった
ものである。
(法令の適用)
第一について 住居侵入の点について刑法60条、130条前段
窃盗の点について刑法60条、235条
第二について 毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2
第三について 刑法60条、235条
第四について 道路交通法119条2項(1項9号)、70条
第五について 道路交通法119条1項10号、72条1項後段
(処遇)
少年は本籍地で出生し、同地の小学校に通学していたが、4年時に当時、建設業をしていた実父が事業に失敗して倒産したため、昭和51年4月に静岡に転居し、次いで同年6月に逗子市に転居したものであり、このような生活環境の急激な変化に少年が十分対応できないまま、不良交友を始めるところとなり小学校5年時から窃盗非行に至り、その後、児童相談所の指導を受け、教護院にも在院したにもかかわらずその指導に従わぬまま無断外出を繰り返し、窃盗非行等を繰り返していたものである。
そして、少年は、当庁において、昭和56年3月20日ぐ犯及び窃盗保護事件により少年鑑別所に収容されたうえ初等少年院(一般短期処遇)に送致され、同年8月27日静岡少年院を仮退院し、同57年3月中学校を卒業して土建業に従事したが同年12月ころには退職して無職となり、その後、大工をしていた父親の手伝いをするようになったものの、なおシンナー吸引を繰り返すなど生活状況が改善されず、当庁において、同58年10月31日毒物及び劇物取締法違反、業務上過失傷害、道路交通法違反、恐喝及び窃盗保護事件により少年鑑別所に収容のうえ中等少年院(一般長期処遇)に送致され、同59年7月13日小田原少年院を仮退院し、亡父(少年の父親は少年が小田原少年院に在院中病死した。)の知人が経営する土建業に従事したものの上記第一及び第二の各非行事実を敢行したため逮捕され、横浜少年鑑別所に収容されたものである。そして、当庁は、少年の上記第一及び第二の保護事件について、少年が審判廷において鑑別所収容により十分反省し、交友関係を改め仕事も真面目にやる旨供述誓約し、従前よりは更生への意欲がみられたことから、昭和59年11月5日、当庁家裁調査官による在宅試験観察に付したのであるが、その後、少年は自動車学校に通い普通免許を取得したものの、免許取得直後に上記第四及び第五の各非行を敢行し、次いで上記第三の非行に至ったものである。
ところで、少年は実母と実弟と3人で生活していたが、実母は少年の実父死亡後、自らのパート収入と長女からの仕送りにより家計を賄っており、収入面からの生活苦は一応ないものの、少年の相次ぐ非行により心労を募らせ、少年の指導監督について苦慮し、その具体的対処方策を見出せないでいる。少年も実母に対しては依存し、反抗したりなどはしないものの、直ちに実母の指導監督に従うというわけではなく、実母の監護に従わぬまま不良交友を重ねては上記各非行に至っているものであり、このような状況からすると、少年の保護を図るには在宅のままでは到底困難というべきであり、少年院における矯正教育に期待すべきである。
そして、上記のとおりこのように少年についてはすでに児童相談所をはじめ関係機関が少年を更生させるべく関与したが、その効果については必ずしも十分上ったものということができないことは明らかであり、これが少年の欲求不満耐性の弱さに基づく非行抑止力の脆弱性に多く起因するものと認められるとはいえ、これから少年の更生改善を図るためには指導教育について従前以上に十分な配慮が払われるべきである。
ところで、少年は上記のとおり在宅試験観察になった後、運送会社に勤務したが上記自動車事故により直ちにそこを退職し、海産物の販売員をするなどしていたものであって、安定した職場を得て永続して稼働するという状況には至らなかったものであり、過去においても中学卒業後、土建業、実父のやっていた大工の手伝いなどしかやっていないばかりかいずれも永続的かつ真剣に稼働をしていたとはいえず、これによる生活基盤の不安定さから、不良交友に至っていると認められる。この点からすると少年の生活面の安定についてはまず職業面から安定させることが必要であると思料される。
そして、そのためには、少年は特段職業的技能を有していないので、これを身に付けさせることが必要であり、そのため職業訓練を施す必要があり、この職業訓練によって技術を身に付けさせて少年の自立化を促し、併せて将来に対する見通しを持たせて場当り的な思考、行動様式を改めさせたうえ、欲求不満耐性の強化を図ることが必要である。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項後段、少年院法2条により主文のとおり決定し、その収容期間、処遇については中等少年院において職業訓練を実施するのが相当と考えるから、その旨勧告する。
(裁判官 秋武憲一)
処遇勧告書<省略>
〔参照〕抗告審(東京高 昭60(く)106号 昭60.5.14決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されたとおりであり、要するに原決定の処分は、中等少年院の職業訓練課程において少年の矯正教育を実施するのを相当であるとした点で著しく不当であることをいうものと解せられる。
そこで関係記録を調査検討すると、少年の本件非行の内容は、原決定が非行事実として認定しているとおりであり、少年は、昭和59年9月11日午前10時10分ころ、逗子市○○所在の他少年の母親が借りているアパートにおいて、みだりに吸入する目的で、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する劇物成分を含有するラツカーうすめ液約226ミリリツトルを所持し(第二の非行)、他少年1名と共謀のうえ、同年10月2日午前零時30分ころ同市○○所在の同市立○○中学校に、窃盗の目的で侵入し、同校職員室において、同校教諭が管理する現金約7000円を窃取し(第一の非行)、次に同年12月20日午前6時45分ころ、同市○○×丁目×番×号先路上を普通乗用自動車を運転し、逗子マリーナ方面から国道134号方面に向かい時速約40キロメートルの速度で走行中、運転席前面のヒーターのスイツチを操作するにあたり、進路前方を注視し、かつ、ハンドル操作を的確にすべき注意義務を怠つた過失により、自車の運転を不安定にして、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転せず(第四の非行)、同日時ころ、同所において、右のような運転により進路右側の店舗のシヤツター及びブロツク塀を損壊する物損事故を惹起したのに、右事故を警察官に報告せずに逃走し(第五の非行)、さらに他少年1名と共謀のうえ同60年1月11日午後11時30分ころ、鎌倉市○○所在のC方駐車場に駐車中の同人所有の普通乗用自動車内から、同人所有の現金約4400円を窃取した(第三の非行)、というものであり、右非行事実に基づき少年を前記の保護処分に付した理由は、原決定が「処遇」の理由の項で詳細にその所以を説示しているところに尽きるのであつて、当裁判所も、その理由をすべて相当として是認することができ、これに付け加える必要を認めない。なお、少年は、原決定が少年を中等少年院に送致した処分自体は自分としては納得せざるをえないが、現在在院している標記少年院は自分が将来就こうと考えている浄化槽関係の仕事又は明太子売には役に立たないから、これらのことが勉強できる一般の中等少年院に在院できるような措置をとつてほしいと希望し、その実現の為の手段として本件抗告に及んだものと考えられるが、具体的に少年をいかなる少年院に入院させるかは、執行の問題であつて、抗告理由とならないところ、若し右不満ないし希望があるならば、例えばオリエンテーシヨン等の機会に担当教官と話し合い場合によつては右教官を通じ院長の措置(移送)を求めるべきである。これが少年の不満を解消し、希望を実現する相当適切な方法であつて、当裁判所にこれを求めるのは筋違いであろう。論旨は理由がない。
よつて、本件抗告を棄却することとし、少年法33条1項、少年審判規則50条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石丸俊彦 裁判官 新矢悦二 高木貞一)